クリエイティブ・ウェルビーイング・トーキョー だれもが文化でつながるプロジェクト

レクチャー&ワークショップ テーマ1「視覚身体言語とコミュニケーション」

2023年11月10日(金曜日)

  • だれもが文化でつながるサマーセッション2023
レクチャー&ワークショップの画像
  • 日時:2023年8月1日(火) 13時30分〜15時30分
  • 場所:東京都美術館 ロビー階第4公募展示室
  • 講師:和田 夏実(めとてラボ)
  • 手話通訳:小松 智美、新田 彩子

目次

1)レクチャー:「つたえる・つたえあう」方法を模索する
2)ワーク:あなたの世界の中にあるもの3つ
3)ワーク:「意識がどんなことをしているか考えてみよう」
4)ワーク:「つたえかたのデッサン」
5)ワーク「モデルのデッサン 世界にあるもの3つ」
6)振り返りとまとめ

1)レクチャー:「つたえる・つたえあう」方法を模索する

「初めまして、和田 夏実と申します。サインネームはこのように表します」。そう手話で話し、丸い果実を握った形の手を口の前にもってくる表現をする講師の和田さん。「私の両親はろう者です。生まれた時から家の中でのコミュニケーションは手話でした。家を一歩出ると、学校などでは音声言語。そしてまた家に戻ると手話という環境で育ってきました」。CODA(Children of Deaf Adults)として2つの言語を行き来して育ってきた中で、和田さんにはある問いが生まれたそうです。

それは、「人はそれぞれ頭の中のイメージをどのように伝えているのか?」というもの。和田さんは「たとえば文字で『花がきれい』と書いたとき、それがどんな花なのかまではなかなかイメージできませんよね。でも手話だったら、表情や動きと一緒にそれが伝えられるんです。私はその人の内側にある言語の世界に関心があります」と続けます。

そして参加者の方々に「今日はお互いに『つたえる・つたえあう』方法を模索しながら、自分のやり方や相手のやり方が同じなのか、違うのかを一緒に考え、実験してみたいと思います」と伝えて、レクチャー&ワークショップが始まりました。この時間、和田さんはすべて手話でお話しし、和田さんの手話を手話通訳者が読み取って音声言語に通訳しました。通訳された言葉を聞いたり和田さんの手話を見たりする形で、参加者に情報が共有されていきました。

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2)ワーク:あなたの世界の中にあるもの3つ

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最初のワークで和田さんから提示されたのは、「あなたの世界にあるものを3つ教えて下さい」というテーマです。仕事でも趣味でも出身地のことでも何でもOK。会場にいる40名ほどの参加者が4〜6名のグループに分かれ、グループごとにそれぞれの頭の中に浮かんだものをシェアしていきます。

今回のワークショップの各グループにはろう者、難聴者、盲ろう者、聴者などいろいろな聞こえの特性がある人が参加しています。そのため頭の中に浮かんだものをシェアする時のコミュニケーションの方法もさまざまです。相手に合わせて手話や筆談、時にはジェスチャーを織り交ぜていきます。ふだん音声言語で伝えることに慣れている人は、ちょっと苦戦している様子も。ここでも「つたえる・つたえあう」体験が広がっていきます。

このワークの終わりに和田さんは、「あなたの意識のゆくえ、見つけましたか?」と会場にいる皆さんに問いかけていました。

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3)ワーク:「意識がどんなことをしているか考えてみよう」

続いてのワークでは、「スライドに数秒間表示される写真を見て、目に映ったものを5つ覚える」というお題が出されました。写真に写っているのは、無造作に置かれたお菓子や果物、おもちゃや生活雑貨です。みんな目を凝らして写真を見つめます。
スライドが消えてから和田さんが数名を指名して、意識に残った5つのイメージを聞くと、「チョコレートとりんご。バラ、ラジオ、ゲームのコントローラー」とか、「電気の通らない積み木と、魚……、あと、桃……?」などの答えが出ました。

「自分の目に入ってきて、覚えたものを答えていただきました。見て記憶したものは、1人ずつ違っているようですね。では次に、教えてほしい情報は何か? ということを考えながら、もう1度同じ写真を見てください」と和田さん。教えて欲しい情報とは? と少し戸惑いながらも、再び写真を見つめる参加者たち。和田さんが「では、どんな情報がほしかったですか?」と聞くと、ある人は「通電するのかどうか……?」と答えていました。
「いま見た写真には、実は明確な意味はありません」と和田さん。そうしたものを情報として突然出されたときに、どのような戸惑いがあるのか、また、どのように情報を伝えられたらその戸惑いや違和感を興味に変えられるのかということを感じて欲しかったのだと説明していきます。

普段さまざまに飛び交う情報には、道を歩くときの信号のように目的があるもの、自分にとっては意味のある情報、さきほどのように意味を捉えづらい情報など、いろいろなものがあります。和田さんは「そうしたものと出会ったときに、これはなんだろうと立ち止まり、不安なのかワクワクなのか意識してみること。もし不安ならばそれをワクワクに変えるにはどのような方法があるのかを考えてみたい」と言います。ひとりひとり異なる、目には見えない意識について、その輪郭に丁寧にふれることの大切さを教えてくれました。

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4)ワーク:「つたえかたのデッサン」

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次は「つたえかたのデッサン」です。まず、ペアを組んで伝え手と受け手に分かれます。受け手が目を瞑っている間に、和田さんが袋からごそごそと取り出した物を伝え手に渡していきます。それは、丸や三角、四角などさまざまな形の積み木でした。この形や特徴を、5つのプロセスを経て受け手に伝えていきます。

その① 言葉でつたえてみよう
まずは言葉だけで、それがどのような特徴を持っているかを伝えていきます。そのものの形や感触のイメージを言葉で伝えることに苦戦している人も。

そのからだでつたえてみよう
次は、からだの動きそのもので伝えていきます。参加者の皆さんは、「あれかな?」「わかった!」など、言葉だけで伝えるよりも具体的なイメージが浮かんできた様子。少しイメージがつかめてきたところで、③から⑤へ進みます。

その③ 描いて、つたえてみよう
その④ 一緒にうごいてつたえてみよう
その⑤ 触って、つたえてみよう

会場では、紙に描いたり、手を取り合って動きを伝えたりしながらそれぞれのペアで伝え方を模索していきます。だんだん動きが大きくなって、もう答えが出ているところも。ちなみに手話で伝え合っていたグループはかなり早い段階で正解が出たようで、「手話だとすぐにわかっちゃうね……」と話していました。
最後に答え合わせをすると、「あ〜これか〜」「当たった!」などの声があちこちから挙がっていました。会場の半数程度がイメージしたものと同じだったそうです。
ペアを交代して、もう1度同じワークをしていきます。今度は2つの積み木が、しかも不思議に組み合わさった形で渡されていきます。これは難しい! もちろん受け手はそれを知りません。さらに伝え方のプロセスに、「そのみたてて、つたえてみよう」という、伝えたいものを別のものに見立てて伝える方法も加わりました。

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皆さん工夫しながら①から⑥のプロセスで伝え合いました。答え合わせです。参加者からは、「この形(半円と四角の重なり)なのですが、おでんの具にたとえてもらったので、分かりやすかったです」といった声や、逆に「丸の半分と伝えられて、球体を半分に切った形を想像していたのですが、実際はかまぼこ型(半円)でした」といったイメージのズレの話もありました。

「最初に抱いたイメージって固定化されて、変えるのがなかなか難しいですよね。実際のコミュニケーションでも、最初に受け取ったイメージに引きずられて、それが変えられないということが多いかなと思います」と和田さん。さらに、「光とか、雨、世界。そういった単語で表現した時に、一人ひとり受け取るイメージや規模感も違います。感情ひとつとっても、私とあなたでは捉え方が違って。そういうことを改めて考えると、これまでコミュニケーションできていたことが不思議に思えるほどです」と話し、皆さん深く頷いていました。

このワークを通していろんな伝え方に触れた参加者の方々。伝えることに対する意識がぐっと深まっているのを感じます。そして、体を動かしたり触れ合ったりしているうちに、いつの間にか顔を合わせてお互いニコニコし合う様子も見られ、会場は自然と暖かい雰囲気に包まれていました。

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5)ワーク「モデルのデッサン 世界にあるもの3つ」

いよいよ最後のワークです。6人で1グループになり、モデルを1人決めて、その人の「世界にあるもの3つ」を確認してデッサンしていくという内容です。
和田さんが説明のために表示したスライドには、「恋愛」と書かれた言葉の周りにいろいろな言葉が並んでいました。義務、罪悪、絶望、運命といったものから、りんごやバナナ、犬、明日、雨上がりなど。参加者は「ん?」と首を傾げます。

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▲デザイン:NEGISHI MOMOKO

「少し難しいですよね。この図は浦川 通さんの『意識の辞書』(spiral、2017年)という作品より、引用している図なのですが、どういうことかと言うと、たとえば『恋愛』に対して、その言葉から、義務感とか運命を連想する人もいれば、犬や明日を連想する人もいる。1つの言葉に対して人はいろいろな言葉を連想していく、繋げていくということです。では、たとえば『家族』と言った場合、その周りにはどんな言葉があるでしょうか? そんなことを考えながら、モデルになった人が持っている世界はどんな世界なのか、言葉だけではなく体験も含めて、質問をしながらデッサンをしてほしいなと思います」と和田さんは話しました。

グループで円形になり、モデルに向けてそれぞれが思いつく質問を投げかけていきます。「あなたは賑やかな場所が好きですか?」「そうですね、そういうところもあると思います」。「あなたは水が好きですか」「そんなことはないです」「えー!?」。どこかふわふわとした掴みどころのない時間でありながら、その場自体がなんだか楽しくて、思い思いの表現で、モデルになった人の世界にあるもののイメージを引き出し合っていく皆さん。会場のあちらこちらで笑いや拍手が沸き起こっていました。

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6)振り返りとまとめ

モデルのデッサンが終わると、和田さんからのまとめの言葉がありました。「5年とか10年とか、長い時間一緒にいる人でもわからないことは多いですよね。自分が何かを伝えるときに、それを受ける人との対話の中から、これまで目には見えなかった相手の世界の見方が表れ、自分の世界の見方と重なる部分が出てくると思います。相手はなぜそういう行動をしたんだろう。なぜこのような言葉を発したんだろう。それがどんなふうに記憶と紐づいているのか。そんなことを想像しながら質問をして探っていくことを、時間をかけてつなぎ、紡いでいく。100%わかりあうのは難しいのだと思いますが、今日のレクチャー&ワークショップが自分の中にあるもの、そして相手の中には何があるのかについて改めて確認をしながらコミュニケーションを取っていくことを、考えるきっかけになったら嬉しいです」。

そして、「ぜひこの後も、電車の中や家に帰ってからも、隣の人の頭の中はどうなっているのかな、伝えられているのかな、などと考えてみてもらえたらと思います。人と人のコミュニケーションの『冒険』の新しい旅に出発してみてください。ありがとうございました」と、和田さんからこの感覚と身体性の再構築を考える時間が「つたえる・つたえあう」ことの新しい始まりだったのだと伝えられ、レクチャー&ワークショップは終了しました。

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(text by 福留 千晴 平原 礼奈)